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大阪高等裁判所 昭和58年(ネ)1629号 判決 1984年2月17日

控訴人(被告) 破産者 マキタ住宅建設株式会社

破産管財人 平岡建樹

被控訴人(原告) 橋和良

訴訟代理人 正木孝明 外一名

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は主文同旨の判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の事実上、法律上の陳述、証拠の提出援用及び書証の認否は、控訴人において次のとおり主張し、被控訴人において甲第三号証を提出し、控訴人において甲第三号証の成立は認めると述べたほか、原判決事実摘示と同じであるからこれを引用する。(但し原判決二枚目裏七行目に「末だ」とあるのは「未だ」の誤記と認めそのように訂正する。)

(控訴人の主張)

原判決は請負契約を個人的な労務の提供を内容とする場合と、そうでない場合とに二分し後者に付破産法五九条の適用を認めたが、民法上請負契約は一義的に定められているのであるから破産法五九条適用についても一義的に決すべきで右のような二分論をとるべきではなく、双方に未履行部分のある請負契約の請負人破産の場合には破産法六四条により処理されるべきで同法五九条を重複適用する必要はない。

また、原判決は右のような場合破産管財人の任意の選択(契約の履行か解除か)により相手方の債権が財団債権になるか破産債権になるかの差異が生ずるのは均衡を失すると判示するが、この差異が生ずるのは管財人の選択により決まるのではなく、相手方との債権債務が同時履行の関係にあるか否かにより決まるのであるから右の判示も失当である。

理由

一  被控訴人が昭和五六年七月二二日訴外マキタ住宅建設株式会社(以下訴外会社という)との間で被控訴人が注文者、訴外会社が請負人となつて原判決添付別紙物件目録記載の土地上に、一階鉄骨造、二階木造の事務所併用住宅を建築する旨の請負契約(以下本件契約という)を締結したこと、被控訴人が訴外会社に対し、同会社が破産宣告を受ける以前に請負代金の内金として合計金一六〇〇万円を支払つたこと、訴外会社が昭和五七年二月三日大阪地方裁判所において破産宣告を受け控訴人が破産管財人に選任されたこと、右破産宣告当時本件契約は訴外会社及び被控訴人の双方が未だその履行を完了していなかつたこと、被控訴人が控訴人に対し破産法五九条二項にもとづき本件契約を解除するか否かの催告をなす書面を発し、右書面が昭和五七年二月二二日ころ控訴人に到達したこと、以上の事実はいずれも当事者間に争いがなく、本件契約の請負代金総額が金二一〇〇万円であると認められることは原判決六枚目裏一行目から七枚目表一〇行目までに説示のとおりであるからこれを引用する。

二  ところで被控訴人は請負人破産の場合に請負契約の注文者として破産法五九条二項による相手方の確答催告権を有することを前提として主張するのに対し控訴人はこの場合には同条の適用ないし準用はないと争うので案ずるに、破産法六二条は注文者破産の場合の請負人または破産管財人の解除について破産法五九条二項を準用しながら請負人破産の場合の解除について触れるところがない。そしてこの点について請負人破産の場合に請負人の義務が請負人の個人的な労務の提供を内容とする場合とそうでない場合とに区別して考える必要があるとし、後者の場合には個人的な労務の提供が請負契約の要素ではなく請負関係も一つの財産関係として破産財団に引き継がれることになるので、この場合の処理は双方未履行の双務契約の一般原則である破産法五九条に従つて処理すべきものとする見解がある。そして原判決はこの見解に立ち請負人が法人である本件の場合は請負人の個人的な労務の提供は問題となることはないから破産法五九条の適用を認めることができるとし、被控訴人は本件請負契約の注文者として破産法五九条二項による相手方の確答催告権を有し、右の催告により解除されたものとみなされた請負契約に基く出来高をこえる前渡代金の返還請求権につき法六〇条二項の「破産者ノ受ケタル反対給付」であるとして、これを財団債権であるとの結論を導いている。

ところで財団債権は破産手続によらないで破産財団から随時に弁済を受ける債権であつて(破産法四九条、五〇条)、破産手続の遂行上破産財団の存立にともない当然に発生する破産債権者に共益的な出費のための債権を本体とするものというべきであり、実質的には破産債権たる性質をもつものであつても公益的な理由や社会政策的な理由などによりこれを財団債権としているものも存するが(破産法四七条二号、九号などはその例である)、財団債権が多数債権者間の公平な満足を実現すべき破産手続の例外を認めるものである以上、破産法が請負人破産の場合の解除について触れていないにもかかわらず、請負契約のうち請負人の義務が請負人の個人的な労務の提供でない場合に限つて破産法五九条の一般原則に従つて処理すべしとする右の見解は、必ずしも法文上の根拠が充分とはいえない。

もつともひとしく請負契約といつてもその内容が個人的な労務の提供を内容とするものから代替的債務を内容とするものにいたるまでさまざまな類型が存するものであるから、それぞれの類型に応じ破産法五九条の適用の有無について立入つて考察をなすことは合理的な理由があるものということができる。したがつて民法上請負契約が一義的に定められていることから破産法五九条の適用についても一義的に決すべきであるとする控訴人の主張はやや皮相に過ぎる嫌いを免れず直ちに左袒し難い。

そこで進んで請負契約における請負人、注文者双方の債務の内容を実質的に検討してみるに、請負契約における双方の債務の内容はそれぞれ仕事の完成と報酬の支払であつて、請負人が破産宣告を受けた場合には、その請負契約の内容が請負人の個人的な労務の提供を内容とするものでなく、代替的債務であつても、請負つた仕事を完成させること自体は財団を増加せしめて、その利益になると共に破産者、注文者双方にとつても利益となることを失わないことが多いと解せられるから、請負人の破産を請負契約解除の理由とする必要は乏しいというべく、前者の場合、請負人が仕事を完成すること、すなわち労務を提供することそれ自体は破産財団の管理又は処分に属しないことであり破産財団とは無関係であるからこのような場合における請負人の仕事が未完成のときは破産法五九条の適用がないと解することは実質的にも相当であるし、後者(代替的債務)の場合にも破産法六四条により破産財団の介入により請負工事完成の方法が講ぜられており且つその適正な運用により妥当な解決がなされるものと解すべきであるから、この場合にも同法五九条の適用を認める実質的な理由は乏しいといわねばならない。

以上のとおりで本件請負契約の注文者たる被控訴人に破産法五九条二項による相手方の確答催告権があるとの被控訴人の主張は採用し難く、右条項の適用のあることを前提として本件契約解除により被控訴人が訴外会社に対して支払つた請負代金内金一六〇〇万円から工事出来高を差引いた残額について破産法六〇条二項により財団債権となるとして控訴人に対しその支払いを求める本訴請求は、その余について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却すべきである。

三  よつて被控訴人の控訴人に対する請求を一部認容した原判決のうち控訴人敗訴の部分を取り消し、被控訴人の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今富滋 裁判官 西池季彦 裁判官 亀岡幹雄)

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